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引っ越ししなければならなくなったのは、突然だった。住み慣れた、それもとても愛着のあった部屋を離れるのは辛い。けれど、ちょっと事情があって、どうしても出なければならなかった。
気が付くと、フランス生活ももう3年目に突入している。最初の一年はパリと東京を何度も往復しなければならなかったけれど、もうすっかり落ち着いて、今の生活のリズムが、基盤が出来上がっている。
まだたった2年、されど、2年... その、両方を思う。しかし、感傷にひたっている暇はない!急いで、次の部屋を探さなければ...
それから鬼のように忙しい日々が始まった。フランスでアパートを探す方法はいくつかあると思うけれど、私はあまり休みが取れなかった(取りたくなかった)というのもあって、もっぱら主たる不動産アプリで。De particulier a particulier、通称Pap、その名も「個人から個人へ」と仲介業者を通さず大家さんから直接借りる物件を探すアプリと、SeLoger、仲介業者は通すけれども、妹&ぽむくん、炎のバイヤーチームによると、物件の家賃そのものはどうやらPapに載っているものより、安い...?!という、二つのアプリ。
予め条件と、自分が希望する家賃の相場、住みたい地区を設定しておいて、なんと便利な、アラートを受け取ることも出来る。もちろん両アプリとも、それぞれサイトがあるので、サイトに行って探すことも可能だけど、私はアプリで探しました。なんとなく。
ちなみに私の希望する条件は.....
・家賃は800ユーロ。出せても850ユーロMAX!(当たり前だけど、安ければ安い程有り難い。)
・出来ればワンルームでなく、もう大人なんだから二部屋欲しい
・住みたい地区は、会社が引っ越すかもしれないことを考慮して、3番線沿いの17区か夢の9区、妹の住む15区(でもモンパルナス寄り)、もしくは前と同じ地区(でも予算的に無理か...)
・バスタブ付きがいい
・洗濯機が部屋の中に備え付けがいい。コインランドリーに重たい荷物持って日曜日ごとに行くのはイヤ。。
・エレベータなしなら、フランス式4階まで...(日本で言う5階)。ぱっと歩いて上がれる、低層階の方が理想。
・会社がスーパーワイルドな危ない地区にあるので、それとの差別化をはかるため、出来れば綺麗な地区に住みたい。じゃないと精神衛生的にキツいので。。
と、ざっとこんな感じでした。難しいよ、自分!
一応ちゃんと働いていると言っても、外国人なので、ちゃんと書類選んでくれるかな、いい返事をもらえるかな...という不安がいつもあった。しかもいい物件を見つけて、担当の不動産屋なりアポイントの電話をしても、担当者がなかなか捕まらない、電話に出ない。と思えば、瞬時の差で、もう借り手が決まっている。「だったらなんで広告外しておいてくれない!!」と怒るのも束の間、メッセージを送っても当然返事は返ってこない、なしのつぶてで、ほとほと苦労しましたが...。
最初に見に行ったのは、17区、凱旋門の裏を一本入った、テルヌという地区で、全然知らなかったものの、大通り沿いには全部いろんなお店があるわ、スーパーもたくさんあるわ、屋内市場まで近くにあり、とても庶民的で、暮らしやすそうなエリア。
アパート自体は、まぁ閑静な住宅街の、奥の、別棟、いわゆる元女中部屋(使用人部屋)の6階、最上階にあり、各階に一世帯しか住んでなかったので、すごく静かで、加えて、日当りもいい。ミニバルコニーまで二つも付いており、なんとも可愛い。床は青いカーペットが一面に敷き詰められていて、なんともキッチュ、レトロ。お風呂場は希望していた、バスタブ付き!棚もありとあらゆる壁中に作りつけられていて、新たにタンスを買う必要もなし(しかも私は大量の服持ち...)。まるで私のための部屋!と思わず錯覚した程。
家賃も、今時のパリに珍しく、なんと二部屋、35平方メートルで730ユーロという破格の値段だったのだけれど、問題はフランス式6階、日本でいう7階、使用人部屋の棟ということは、母屋と違ってエレベーターなし!の、「毎日の買い物どうするの?!水(ペットボトル大6本セット)は?!」という点だった。
なんとこれが見に行った一件目の物件だったにも関わらず、見に行った翌日、早速不動産屋のおじさんから候補の電話がかかってきた!確かに、他にも見に来ている人数人と同時に下見の最中、私の勤めている会社をおじさんが知っててくれたこともあって、何かと意気投合、上手く行くものがあったのだけれど、外国人だし、そう簡単に選ばれるわけない...と思っていたらすぐの電話だったので、びっくり!
6階エレベーターなし、洗濯機の取り付け工事はこれから始まる。けれど置けたからと言って、台所は台所と呼べるにはほど遠く、いわゆるキチネットという、キッチンの極小版、流しだけしか付いてないような有様で...。コンロはなし、自分で買って置かなければならないけれど、置く場所だって定かじゃないような、簡素な作り。
料理、ものすごーく得意、するという程でもないけど、やっぱり簡単なものは作って食べたい。時間があれば、週末などにゆっくり料理するの、好きだし。友達にも、「すっごい料理するの好きじゃない限り、そういう部屋でもいいんじゃない?でも、洗濯機の排水ホースがキッチンの流しに取り付けられるって、私も前にそういう物件一度見たことあるけど、やっぱりエステチックじゃないから(審美的にNGという意味)、やめたのよね」という意見であった。
それから問題は、今の部屋には中古で買った洗濯機と、作り付けの冷蔵庫があったのだけど、せっかく洗濯機をもう持っているにも関わらず、新しい部屋、6階まで持って上がるのは不可能に近い... 出来ても、誰に頼むの?!洗濯機なんて重いもの、男友達に頼むのだってさすがに気が引ける(彼には早めに、『それだけは絶対に勘弁してくれ』と言われていたw)。
じゃあ新たに買って、配達してもらわないとならなくなる。冷蔵庫も同様。しかも、冷蔵庫は、キッチンが狭すぎて置けないので、サロン(リビング)に置くことになる。これも、複数の主に年配のフランス人から、「エステチックじゃない」とのコメントをもらった。外見がいかに綺麗で整っており、洒落ているかは、フランス人にとってすごく重要な要素なのだ。
いくら部屋自体の家賃が高くても、いくらなんでも初期投資が多過ぎる、かなりの出費になるだろう...と見込んで、せっかくオファーの電話をもらったものの、悩みに悩んで、サイン当日の朝、電話して丁重に断ってしまった。
おじさんには本当に申し訳ないことをした。その後、丁寧に返ってきたメールの本文に、
「マドモアゼル、残念です。ですが、これでまた、誰か別の人に喜んでもらえるでしょう...」
と書いてあり、心が痛んだものの、その通りだな、と思って、おじさんのウィットに富む文章に感謝する思いだった。
それからは、一度はサインまで決まりかけた部屋を断ってしまったことにまるでバチが当たるかのように、見る部屋見る部屋、どれも、80%も満足出来ないような、有様。中には、探していた時期が夏だったということもあって、工事中でろくに様子も分からないようなもの、もしくは、水漏れに遭い、壁が一面真っ黒... (ひー!)
またある時には、なんと、住んでいた部屋の目の前の立派なアパルトマンの屋根裏部屋が広告に出ており、『これだー!これなら生活のベースも変わらないし、家賃もちょっと高いけど、なんとかなる!あの建物は前にドアが空いてるとこ、ちらっと見たことあったけど、エレベーターもあったし』とルンルンで内見の待ち合わせをお願いしたら、なんとエレベーターのある立派な母屋とはまず、入り口が別で、エレベーターを目の前に右に横切り、細い、暗い通路を抜けたらあとは、細い細い、気の遠くなるような螺旋階段を6階まで上がらないとならないという、超女中部屋の作りに、私、カルチャーショック!
6階の部屋は、まるで牢獄のような作りで、ドアには番号が。まるでこれじゃ独房である。床も、掃除が行き届いていない。私が部屋を探している頃、ちょうど両親が遊びに来ていたのだが、この内見に興味津々で付いてきてくれた父は、『ホコリ溜まり過ぎ... !』と密かに驚愕していたようである。
肝心の部屋自体は二部屋をくっつけて、改装してあり、不動産屋のお姉さんの話を聞くと、昔は六畳一間で、各部屋の使用人、メイドが住んでいたそうである。まったく、こんな狭い、暗い部屋に住んで、一日中働きづめの生活を送っていたなんて...!まぁ、そういう時代だったとしても... 想像するだけで、不憫でならない。改めて、フランスの闇の階級社会の一面というか、差別を垣間見てしまった。入り口からして別だなんて... ただの内見に来たのに、あまりの凄さ、歴史が残っている様に圧倒されて、私は言葉も出なかった。廊下には、まだ当時共同で使っていた、トイレが残っている。
部屋は20部屋以上もあったけれど、現在住んでいるのはたった二世帯なんだそう。たぶん、学生だね。もしくは社会人か。けれど、あそこ絶対幽霊出ると思う!!XD
あんな暗い、狭い螺旋階段を一人で夜遅く帰った後、上がって帰る勇気はありません!!
とまぁ、またこれでパリの、新しい一面を知る機会になるというか、体力と時間をかなり消耗した部屋探しだったものの、今は無事に新しい部屋が決まって、ほんとうにほっとする思い。
新しい部屋は、Papで、写真もなく、大して期待もせずに見に行った部屋だったのだけれど、前の部屋に近いから大して行動範囲変える必要もなし、希望する低層階、バスタブはなかったものの、身動き取れないようなボックス型シャワーでもなく、割とゆったりとした作り。部屋自体はミクロコンパクトで、バスルーム部分を入れても全部で20平方メートルと小さな、ワンルームですが、コンロは付いてる、冷蔵庫、洗濯機も!ということで、予算オーバーだったものの、部屋探しに疲れて、両親の後押しもあり、決めてしまった...。
極めつけは、出会った時からすごく感じのいい優しい大家さん(普段は南仏に住んでいる)が、なんと息子さんの一人が日本人と結婚されていて、日本へはもう10何回も行ったという、親日家だったこと!XD (お風呂場にかけてあった、日本の温泉でもらう薄いタオルで分かったw)
なんという偶然。というわけで、内見の時から意気投合、「あなた、これを見に来たんじゃないわよねぇ...苦笑」とお孫さんの写真まで早速PCで見せてくれるという(笑)、とてもスムースに事が進み、私は全然期待していなかった分、提出しないといけない書類(給与明細、パスポートのコピー諸々)をなんと忘れて、持って来ていなかったんだけど、きちんと説明し、翌日再度アポイントメントをお願いし、書類の提出だけに再度伺うことに成功。この時点で、どうやら大家さんはそもそも私に決めてくれていたみたい。
広告を載せた当日に、なんと7件(!)もの内見依頼の電話が早速かかってきて、私は二番目。一番目の子の経歴がちょっとおかしかったらしくw、順番的に私へと幸運が回ってきたのでした。
マダムは、「○○(息子さんの奥さん)のおかげだわ、こうしてマリを信頼することが出来るのは」と優しい微笑みで言って下さった。
内見に尋ねた数、計7件。フランスは日本では当たり前の、「玄関」とかありますからね、広告に。w
途中、9区の前から好きだった閑静な地区にかなりいい条件のアパートがあり、早速書類提出、そしたらなんと、給料の条件が、なんと50ユーロ足りない... というアクシデントがあり、これには相当へこんで、メールをもらった時思わず会社のデスクで泣いてしまった程だったけれど、こうして無事に、(決して自分一人だけの力ではないけれど)なんとパリで部屋を借りるという日が来て、自分を誇りに思うことが出来るだろう。
(もちろん、50ユーロ足りませんと言われて泣いて黙ったわけじゃなくって、抗議したし、なんとか交渉してもらえないものかとありとあらゆる書類を会社に用意してもらって、戦ってみたけれど、そうこうしていたら今の部屋に巡り会ったので、最終的にはこっちから辞退した。)
探せば、きっと望むような部屋はある。けれど、パリは年中住宅難で、借りたい借り手の方が膨大に膨れているし、貸したい大家さん・物件を持つ不動産屋の勝ち市場。こんな市場も珍しいと思うけど、しょうがない。私が引っ越ししないといけなくなったのは、ちょうど6月頭。ちょうど学生がパリでの学業を終えて、田舎に帰るなり外国に旅立つ、安い部屋やワンルームが大量に空きが出る頃で、引っ越しは本当に困難極めることだけれども、ある人ある人に、「でもね、マリ、この時期でほんとラッキーよ」と言われたのだった。
出来ることならもうこんな面倒な、部屋探しをする羽目に遭いたくないけれど、いろいろな物件を見て楽しかったのも事実だし、目が肥えた。いろいろ見ると、比べられるようになるし。
本当いい経験になった。同僚の話では、「絶対この通りに住む!」とかなり条件を絞っていたので、彼女はなんと、25件も見に行ったそう。ひぇー!
今もしパリで部屋を探してる方がいたら、どうか上手く行きますように...!人事ながら願ってるよ。
mari
その後帰るとバカンス後にありがちな、フランス語忘れるもしくは出づらくなるという副作用付きだったもののw、いい時を過ごしたー!XD